大江戸シンデレラ
「うちのおっ母さんは、わざわざ婚家に預けるくれぇだから、さぞかし思い入れのある着物だろ、っ云ってたぜ」
と兵馬は云うが、おそらく島村の家にしてみれば美鶴から「預かって」いたものを返した、というだけであろう。
そもそも「武家の妻」となった今、美鶴が町娘のごとき黄八丈を身に纏うことは二度とあるまい。
されども、美鶴にとっては……
母と同じ「呼出(花魁)」になるべく芸事に励んだ、あの日々の「証」である。
そしてまた、 短い間ながらも兵馬と人目を忍んで逢瀬をしていた、明石稲荷でのあの日々を思い起こさせる「証」でもあった。
もしも、身に纏うことはなくとも手許に置いておくことが赦されるのであらば……
——わっちの傍らに……
ずっと置いておきとうなんし。
知らず識らずのうちに、風呂敷包みを持つ手に力が篭った。