大江戸シンデレラ
◆◇ 三段目 ◇◆
◇逢瀬の場◇
あの日より毎朝、舞ひつるが明石稲荷へお参りする際には兵馬が「供」として付き添った。
されども、与力の御曹司である兵馬は、吉原ではあまりにも目を引く。
ましてや、さような御曹司が廓の振袖新造と二人っきりで歩いているのをだれかに見咎められた日には、とんでもない騒ぎとなるのは間違いない。
そもそも、廓の妓が見世の外で男と会うこと自体がご法度なのである。
兵馬にしても、舞ひつるにしても、互いに如何ような沙汰が下されるかしれぬ。
ゆえに、往来では必ず少し離れた処で、兵馬は舞ひつるを見守っていた。
先般、舞ひつるを襲いかけた同心の子息たちは、兵馬が事の次第を上役へ注進したことによって、即刻、御役目を解かれたそうだ。
今は、各々が生家で蟄居謹慎の身だと云う。
『ならば、もう「供」など要らぬようになりなんし』
と、舞ひつるは申し出た。
ところが、兵馬は、
『何を云ってやがんでぇ。
あのときは、たまたまおれが通りかかったから事なきを得たものの、まだまだ無体を働く輩は其処いらじゅうにいるってのよ』
と云って、まったく耳を貸さなかった。