大江戸シンデレラ

「いや、謝るのは……(それがし)の方にてござる」

さように告げると、兵馬は膝を折って地面の上に正座をした。

「わ、若さま……な、なにをなさっておられなんし。お召し物が……袴が……汚れてしまうでありんす……」

美鶴はあわてて膝を進め、一刻も早く兵馬に立ち上がるよう促す。

だが、兵馬は「いや、構わぬ」と意に返さない。


「祝言を挙げた日以来、(それがし)はそなたとは顔も合わそうとせず、卑怯にも逃げ回ってばかりおった。
武家の——いや、(おのこ)の風上にも置けぬ所業でござった。面目のうござる」

正座した膝の上に置かれた握り(こぶし)に、ぐっと力が入った。
その指先は白くなっていることであろう。

「正直を申すと……
そなたと瓜二つの『妻』と相対(あいたい)しておると、そなたを重ねて見るだけでなく……
いつの日か、情までも移ってしまいそうな心持ちがしたのだ」

そして、兵馬は神妙な面持(おもも)ちで腰を折り、深々と(こうべ)を垂れた。

折られた腰から伸びる背筋はまったくたわむことなく、頭頂まで一直線だ。
まるで一枚の(ひのき)の板のようである。

此度(こたび)のことは、ひとえに(それがし)が悪うござった。
……どうか、(ゆる)してはくれまいか」


「わ、若さまっ、わっちのような者に()しておくんなんし。お顔を上げておくんなんし」

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