大江戸シンデレラ

「なっ、なんだとっ」

力なく伏し目がちであった兵馬が、瞬く間に勢いを取り戻す。

その目はたった今、火が放たれたかのごとく(にわか)に熱を帯び始めた。

「島村とやらは、なにゆえにそないなことを……」

しかしながら、()ればかりは当人に聞かねばわかるまい。


「祝言のときは綿帽子の陰でまったく『旦那さま』のお顔は見られでなんしゆえ、若さまであることを知りなんしたのは……夜になって寝所に参ったときでありんす」

「そうか……それで、そなたは(ねや)であの同心の名を呼んでおったのか……」

ようやく、合点がいった。

< 444 / 460 >

この作品をシェア

pagetop