大江戸シンデレラ

ぎしぎしぎし…と(きし)んだ音がして、舞ひつるが背にしていた小堂の扉が、いきなり開いた。

どうやら裏手は引き戸で(かんぬき)がなかったらしい。
其処(そこ)から中に忍び込んだ兵馬が、表の閂を上げて木の扉を開けたのだ。

「……断りもなく御神体を拝顔しなんしなぞ、罰当たりの極まりでありんす」

舞ひつるは真っ青になった。
日参して願掛けしている甲斐が、吹っ飛んでしまう心持ちがした。

「なぁにが罰当たりってんだ。
おめぇさんこそ、その御神体に尻を向けて突っ立ってたじゃねえかよ」

「ええっ」

心外であった。軒下を借りる手前、どうしてもそうなってしまうのだ。

「ぐだぐだ云ってるうちに濡れちまわぁ。
()よう、中に()ぇりやがれ」

「さ、されども……」

とうとう、舞ひつるは兵馬に腕を取られ、小堂の内側へ引っ張り込まれてしまった。

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