大江戸シンデレラ

小堂に叩きつける雨足は、ますます強くなっていく。確かに軒下にいたままでは、今頃すっかりずぶ濡れ鼠だ。

板の間にどかりと座り込んだ兵馬は、(くるぶし)までの丈の(しま)平袴(ひらばかま)を屈託なく(さば)いて胡座をかいた。

木で(しつら)えられた高台にお(まつ)りした御神体の御鏡を正視せぬよう目を逸らしつつ、舞ひつるは裏の戸に近い(ところ)に、黄八丈の着物の裾を崩すことなく、さらには真っ白な前掛けに一本たりとも(しわ)を寄せることもなく、すっ、と腰を下ろした。

そうして、背筋をすらりと伸ばして正座する。


——さすれども……気詰まりでなんし……

兵馬に助けてもらって以来、毎日顔を合わせてはいたが、なにぶん人目を避けて離れて行動していたゆえ、ほとんど話したことはなかった。

さようでなくとも見世の客は年配者ばかりで、かようなおのれと似た歳格好の(おのこ)とは、生まれてこの方とんと声すら交わした覚えがないのである。

ゆえに、如何(いか)ように声をかけていいのか皆目わからず、困った舞ひつるはそれとなく兵馬の容顔を(うかが)うことくらいしかできなかった。

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