大江戸シンデレラ
——若さまは、名も知らぬおなごに、毎朝「供」をしなんしかえ。
舞ひつるは驚きながらも、
「……舞ひつるでありんす」
と、名乗った。
すると、間髪入れずに、
「そないな名は知ってるさ。
おれが知りてぇのは、おめぇが親から授けられた『真の名』だ」
——『真の名』……
廓の妓は「夢の女」だ。
ゆえに、客に決して「現」を見せぬのが心意気である。
その「現」の最たるものが、親から名付けられた「真名」であろう。
見世がわざわざ「源氏名」を名乗らせてまで客の前に出すのは、かような由縁である。
にもかかわらず……
——若さまは、わっちに、真名を名乗らしなんし気でありんすかえ。