大江戸シンデレラ
とは云え、廓の妓を落籍かせるためにはとんでもなく金が掛かる。
「身請」するには、親元に支払った負い目(借金)の残り全額とそれに掛かる金利だけでなく「身代金」も要り、しかも一括で払わねばならない。
身代金は、妓の格とその見世での稼ぎ具合によって決まるため、見世で重宝されているほど高くなる。
時期によっても異なるが、呼出(花魁)ならうんと低く見積もっても千両、部屋待ちの遊女や振袖新造なら五百両、部屋を持たぬ廻しの女郎であっても百両がおおよその相場であった。
宵越しの銭を持たぬ、というより持てない江戸の民にとっては途方もない額である。
淡路屋は、たった一人の跡取り息子のために、五百両もの大金をぽんと出すのだ。
「……そもそも、淡路屋に後妻に入りなんしたお内儀さんが、若い頃久喜萬字屋にいなんしたそうでありんす」
羽おりが、何処ぞで聞きかじったことを得意げに云った。
「えっ、さようでなんしかえ」
羽おとが、団栗眼をさらに大きく見開く。
「なんでも、今の旦那さんが見初めなんして、さんざん通い詰めなんした挙句に、落籍かれなんしたそうでありんす」
「わぁ、わっちもいずれ、そないな主さんに巡り逢いとうなんし」
羽おりも羽おとも夢心地になって、うっとりとしていた。
遊女や女郎にとって、大枚叩いてこの苦界から請け出してくれる「主」は、神様仏様に見えた。