大江戸シンデレラ

もう(じき)()の刻を迎える見世は、宴を終えてすっかり静まりかえっていた。

羽衣はすでに今宵の客と(ねや)に入っている。

舞ひつるたちはこってりと塗った化粧(けわい)を米(ぬか)(こす)って落としつつ、客が手をつけなかった御膳のお(さい)を腹が重くならぬ程度に(つま)んでいた。

もし、羽おりと羽おとの(いさか)いが始まって夜半にもかかわらず騒ぎ立てでもしたら、翌朝舞ひつるやおしげ(・・・)までもが内所に呼び出されて、お内儀(かみ)にこっぴどく叱れる羽目になる。


「お(さと)のことをよう知るお姑がおられなんし。
……玉ノ緒は、きっと幸せになりんす」

舞ひつるは声を抑えてつぶやいた。

< 71 / 460 >

この作品をシェア

pagetop