大江戸シンデレラ
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とうとう玉ノ緒にとって、三味線のお師匠・染丸から稽古をつけてもらえる最後となったこの日。
最後に舞ひつると三人で端唄を浚ったあと、染丸はお三味と撥を脇に置くと、しみじみと云った。
「……玉ノ緒、此度のおめでたき由、まことに良うござんした。わっちもうれしゅうござんす。
淡路屋さんへ嫁っても、達者でやってくんだよ」
玉ノ緒は改めてきちっと正座し直し、三つ指をついて深々と頭を下げた。
「染丸姐さん、右も左もわからぬ幼き頃より今日まで……まことにお世話になりなんした。
姐さんこそ、どうか末永くお達者で……」
声が詰まって、そのあとの句が継げない。
「やだねぇ、湿っぽいのは止しとくれ。
なんだよ、その云い種は。
金輪際会えねぇわけじゃあるまいし、縁起でもないよ。わっちは淡路屋さんのある町家に住んでんだかんね」
まるで今際のきわのごとき玉ノ緒の口上に、染丸が気色ばむ。
「……まぁ、要領のいいおまえさんのことだ。
嫁いた先でも、うまいことやってけると思ってっからね、心配なんぞこれっぽっちもしてねぇけどさ」
そうは云いつつも、染丸の目には光るものが見えた。
玉ノ緒を飛び抜けたお三味の上手にまでに育て上げたのは、染丸だ。
いくらお目出度い慶事とは云え、とりわけ目をかけていた「一番弟子」に去られるのはさぞ寂しかろう。
「淡路屋の若旦那と……幸せにおなり」
面を上げられず、ただ肩を震わせる玉ノ緒の背を、染丸はぽんぽんと叩いた。
そして、舞ひつるの方に向き直り、
「これから先は、玉ノ緒のぶんまで舞ひつるを仕付けるからね。覚悟しなよ」
口元に薄く笑みを浮かべて、ぎろり、と見た。
「ええっ」
お三味が不得手な舞ひつるにとっては、とんだ厄災だ。
とうとう玉ノ緒にとって、三味線のお師匠・染丸から稽古をつけてもらえる最後となったこの日。
最後に舞ひつると三人で端唄を浚ったあと、染丸はお三味と撥を脇に置くと、しみじみと云った。
「……玉ノ緒、此度のおめでたき由、まことに良うござんした。わっちもうれしゅうござんす。
淡路屋さんへ嫁っても、達者でやってくんだよ」
玉ノ緒は改めてきちっと正座し直し、三つ指をついて深々と頭を下げた。
「染丸姐さん、右も左もわからぬ幼き頃より今日まで……まことにお世話になりなんした。
姐さんこそ、どうか末永くお達者で……」
声が詰まって、そのあとの句が継げない。
「やだねぇ、湿っぽいのは止しとくれ。
なんだよ、その云い種は。
金輪際会えねぇわけじゃあるまいし、縁起でもないよ。わっちは淡路屋さんのある町家に住んでんだかんね」
まるで今際のきわのごとき玉ノ緒の口上に、染丸が気色ばむ。
「……まぁ、要領のいいおまえさんのことだ。
嫁いた先でも、うまいことやってけると思ってっからね、心配なんぞこれっぽっちもしてねぇけどさ」
そうは云いつつも、染丸の目には光るものが見えた。
玉ノ緒を飛び抜けたお三味の上手にまでに育て上げたのは、染丸だ。
いくらお目出度い慶事とは云え、とりわけ目をかけていた「一番弟子」に去られるのはさぞ寂しかろう。
「淡路屋の若旦那と……幸せにおなり」
面を上げられず、ただ肩を震わせる玉ノ緒の背を、染丸はぽんぽんと叩いた。
そして、舞ひつるの方に向き直り、
「これから先は、玉ノ緒のぶんまで舞ひつるを仕付けるからね。覚悟しなよ」
口元に薄く笑みを浮かべて、ぎろり、と見た。
「ええっ」
お三味が不得手な舞ひつるにとっては、とんだ厄災だ。