大江戸シンデレラ

辺りをきょろきょろと見渡した玉ノ緒は、やはり急いでいるのか、すぐさま前に向き直り、ふたたび小走りとなった。

草木染めの琉球紬(久米島紬)の(つま)を取って帯に挟んでいるのは舞ひつると同様である。
されども、表に現れた縮緬(ちりめん)蹴出(けだ)しの夕陽のごとき朱色が、なんとも云いがたい色香を漂わせている。

それにしても、この先には明石稲荷の小さな御堂しか、目ぼしいものはない。

——玉ノ緒も、願掛けに来ていなんしたか。

気づかれないように、ときおり仕舞屋の陰に隠れつつ、後ろをついて行く。


やがて、玉ノ緒は明石稲荷の境内へ吸い込まれるかのごとく鳥居をくぐって入って行った。

——やっぱり、お参りのためでいなんしたか。

すると、鳥居の中からだれかが顔を出した。

ずいぶんと若い男だった。
先刻(さっき)、玉ノ緒がしていたように周辺を見渡している。

紺鼠(こんねず)色の着流しに、(くるぶし)までの丈の縞の平袴(ひらばかま)
腰には大小の刀の二本差し。
目の覚めるような白足袋(たび)雪駄(せった)履き。

(かしら)は粋な本多(まげ)で、きりりと精悍な面立(おもだ)ちの……

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