大江戸シンデレラ

「わっちは吉原(さと)に売られてこの方、今日まで身を粉にして精進を続けてきなんした。
さような姿は、必ずやお天道(てんと)さんが見てておくんなんしはず……」

皮肉にも、落ち込む玉ノ緒を慰めるために舞ひつるが云った言葉だ。
(せな)を押してしまったのであろうか。

「なのに……若さまと逢えのうなりなんしは…… あまりにも……殺生にてありんす……」

しばらく、おなごの啜り泣く声だけが聞こえてくる。


「お武家の若さまと、吉原(さと)(おなご)のわっちとでは、生まれが違いすぎるのは重々心得ていんす。
……きっと、この世では果たせぬ、業の深い因果な御縁でなんしょう。
わっちは、お武家である若さまと夫婦(めおと)になりたいなんて烏滸(おこ)がましき夢は、つゆほども願わでなんし。ただ……」

玉ノ緒が息を調える気配がした。

「若さま、後生でありんす。
もし、わっちが心を定めて淡路屋へ()かず、このまま見世に居続けることができなんしたら……」

さようなことをすれば、身請金と面目を失った見世は「見せしめ」のために玉ノ緒を容赦なく「振袖新造(ふりしん)」から一気に「廻し部屋の女郎」まで堕とすであろう。

「呼出」への道は完膚なきまでに閉ざされる。

それどころか、見世が(えら)び抜いた限られた上客を相手にする遊女から、一晩で何人もの相手に身体(からだ)を開かねばならぬ女郎にされてしまうのだ。

それでも——


「わっちを……
若さまのお(めかけ)にしておくんなんし……」

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