大江戸シンデレラ
◆◇ 四段目 ◇◆
◇身請の場◇
それからしばらくして、玉ノ緒は十歳になる前に売られて以来、世話になってきた久喜萬字屋を出された。
結局のところ、玉ノ緒が身請けの話を反故にすることなど、到底できなかった。
実際に、身請けの話を拒んだかどうかについては、舞ひつるには知る由もない。
ただ、聞き分けのない妓を「仕置き」のために閉じ込めて折檻する布団部屋には、ここのところさっぱり使われた様子がなかった。
だが、たとえどんなに拒まれようとも、身請け先には「無傷」で渡さねばならない見世は、その「布団部屋」をちらつかせながら、懇々と玉ノ緒に云い含めたに違いない。
そもそも、親が見世に拵えた負い目のある身の上だ。
どれだけ兵馬に恋焦がれようとも、ついには得心せざるを得なかったのであろう。
その後、吉原を去って真名に戻った「おゆふ」が、身請けされた廻船問屋・淡路屋の若旦那と祝言を挙げ、若内儀の座に収まったということを、舞ひつるは見世の客から聞かされた。
巷には早速、黄表紙「傾城振袖絞戀涙」が出て、讀賣によって飛ぶように売れた。
吉原の振袖新造「天ノ夜」が廓で出逢った大店「鳴門屋」の若旦那と恋に堕ち、周囲の猛反対に遭う中、一時は互いに手を取り合って心中も覚悟する紆余曲折を経て、最後は皆に祝福されて無事祝言を挙げる、という筋書きだった。