大江戸シンデレラ
舞ひつるは仰天した。
青天の霹靂とは、まさにこのことだ。
「まさか……ついこの前、玉ノ緒が落籍かれていきなんしたばかりで……」
おつたの眉間がぐっと寄り、深い縦皺が走る。
だんまりを決め込む長兵衛も、流石に間が持たないのか、懐手を解いて莨盆に渡した二本の煙管のうちの一本に手を伸ばす。
「わっちも、でありんすか……」
舞ひつるは、気の抜けた声になっていた。
されども、心の臓だけが、どっ、どっ、どっ…と騒がしい。
「おまえさんまで、見世から出さなきゃいけなくなるとはね……」
おつたは、苦くて堪らない熊の胆という生薬を無理矢理飲まされたときのような顔になっている。
長兵衛は雁首の先の火皿に刻み莨を詰めたまではいいが、手許が定まらないのか、なかなか火が移せないでいる。
……無理もない。
舞ひつるまでもが出て行くと、久喜萬字屋にとっては次代を担う者がすっぽり抜けてしまうことになる。
さようでなくとも、跡取り息子は父親似なのだ。
だれもが豪胆だと認めるおつたも、たった一人きりの息子だけは弁慶の泣き処で、とかく甘くなってしまった。
「お内儀さん……さすれば、わっちは、
何処へ身請けされなんしかえ」