停留所で一休み
「引き抜き?」

あんなに熱くなっていた胸が、一気に冷める。

「ただの噂じゃなくて?本村君、そんな気はないって……」

私は、半信半疑で聞いた。

「だと思うでしょう?でも私、見ちゃったんだよね。敬太が書類にサインしているの。」

書類にサイン?

「なんかの間違いじゃなくて?」

「いいや。あれは確かに、契約書だったと思うよ。雇用っていう字が見えたもん。」


雇用契約書。

さっきまでの、地道に歩いていた本村君が、頭から消える。

「ねえねえ、引き抜きって給料とか上がるのかな?最初から役職とか付いちゃったりして!」

弥生は一人で、興奮している。


― 安心して。そういう事、一切考えてないし ―


そう言ってたじゃん。

それとも、ウソだったの?
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