停留所で一休み
「え?食べるものがない?」

母はそういう単語だけは、他の人よりも聞こえる。

「ちゃんと買ってるの?」

「ご心配なく。ちゃんとあります。」

ありますって言ってるのに、母は何やら台所を、ごそごそと荒らしている。

「こんな物しかないけど、持って行きなさい。」

紙袋の中には、漬物、うどんやそばの乾めん、お菓子なんかも入っていた。

「ありがとう、お母さん。」

受け取ったのは、物じゃなくて、母の愛情のような気がした。

「身体に気を付けて、頑張りなさいよ。」

そして母は、にっこりと笑ってくれた。


「じゃあ、姉ちゃん。またな。」

克己が仕事へ行く時間だ。

これで克己とも、しばしの別れになる。
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