三日月と狼
ケイとヒロ
ケイの家は意外にも一軒家だった。

少なくとも50年は前の建物に見え、
当時には珍しい洋館のような感じの大きな家だ。

「もしかしてご両親と同居?」

「違いますよ。」

表札には[沢渡]と書かれていた。

「沢渡って苗字なんだ。」

「いえ、僕は水嶋です。

沢渡はここの家主で…今は仕事で海外に。

そろそろ帰ってくると思いますが…
何しろ気まぐれで。」

部屋には色んな国の人の写真がいくつも飾ってあった。

「写真すごいでしょ?

家主がカメラマンで…色んな国に行って
色んな人を撮ってるんです。

主に女性が多いかな?」

と笑ってみせる。

「笑顔が多くて…

…すごく良い写真ね。」

花澄が一枚、一枚丁寧にその写真を見ていると
ケイがお茶を淹れてきた。

「家主が聞いたら喜びますよ。」

「会ってみたいな。家主さんに…」

「そのうち会えますよ。」

「ケイくんとはどんな関係?
ご親戚とか?」

「いえ、全くの他人で…ただの家主と居候って感じです。

飲み屋でバイトしてた時に知り合って…
その時ちょうど住んでたアパートが取り壊しになるって話をしたら
ウチ広いから、よかったらウチで暮らさないかって…

客と従業員てだけで、お互いよく知りもしないのに大丈夫かなって思ったんですが…
ほら、もしかして男に興味あるとかだったら怖いし…

でも全然違って…おおらかで熱くていい人でした。
ほら、この写真見たら何となく人柄がわかりますよね?」

花澄は黙ってケイの話を頷いて聞いていたが、
やはり二人きりになると落ち着かなくて
目を合わせられずに、家主が撮った写真を見ながらケイの話を聞いていた。

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