キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+
朝一から億劫な気分になりながら、倉庫に向かう。

「あー、前橋君居た! 倉庫に居なかったから焦ったよ」

 はい、これ! と差し出された納品書の挟まったクリアファイル。それを見てようやく所長に呼ばれる前に井上と交わした会話を思い出した。そういえば、急ぎの納品書をお願いしていたんだっけ。

「どうしたの?」

「え」

「なんかぼーっとしてるから。大丈夫?」

「大丈夫」

「ほんと?」

 怪訝そうに眉根を寄せて俺をのぞき込んだ後、ふわっと井上は笑う。

「元気無さそうだから、これあげる。運転気を付けてね」

 手に持ったままだった納品書のファイルの上にぽんっと、飴玉を一つおいて井上はバイバイと手を振って倉庫を出て行った。

……いちごみるく、ね。

 久しぶりに見た懐かしいフォルムの飴に、微かに笑みがこぼれる。それと同時に、ふと思う。俺、後3週間でここ居なくなるの? まじで?

 栄さんがここに居て、俺は転勤するわけ? なんかそれ……めっちゃイラッとするんですけど?

「前橋君、おはよう」

 素晴らしいタイミングで倉庫に入ってきた栄さんに、苛立ちを悟られないように短く挨拶を返す。

 別に転勤は栄さんに決定権があるわけじゃないし、場所はともかく昇進らしいし。どっちにしろ栄さんに苛立つのは単なる八つ当たりに過ぎない。

それは判っているのに、どうしても、苛立ちを抑えられなかった。
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