キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+
***
翌朝、井上が身体を起こした気配で目を覚ました俺は、何気なく手を伸ばして井上の頭を撫でた。

「おはよ」

「お……おはよう」

返ってきた戸惑いがちの声音と、表情で気がついた。

井上、絶対に昨夜のこと覚えていない。

「また、覚えてねーの?」

困惑した表情のまま視線を泳がせた井上を見ながら、失笑した。

マジで? どうなってんの、井上のアルコール耐性。

「井上、こんなんでよく今まで平穏に生きてこれたよな」

心の底からそう思う。どの辺から記憶が怪しいのかは分からないけれど、2軒目を出た時からはテンションが違ったから覚えていない可能性が高い。

昨夜、最後までやらなくてよかったと心底思う。

だって今ここで、完全に事後だったらなんて言うかなんて、全く思いつかない。

同時に、なんであんなに普通に話をしていたのに忘れるんだ? と先週と全く同じことを思う。

「井上、俺居ないトコで酒飲むの、禁止な」

当たり前だけど困惑した様子の井上にさらに続けた。

「その辺の男にお持ち帰りされたい?」

俺以外に持ち帰られたらたまったもんじゃない。

俺の意図は伝わっていないだろうけれど、とりあえず知らない奴とどうこうなるのは嫌だと言わんばかりに井上は首をぶんぶんと横に振った。

それを見ていたら、昨夜の出来事の方が現実味がない事のように感じられて来て、気が抜けて笑ってしまう。
< 24 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop