キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+
「栄さん、地下鉄乗らないじゃないですか。俺、途中まで一緒なので送っていきますよ」
「そうです! 私、前橋君と帰りますから!それじゃあ、お先に失礼します!お疲れ様でした!!
いこ、前橋君」
ぱっと表情を明るくしたかと思うと、最低限の挨拶をするなり、井上は俺の腕をぐいっと掴んで彼女にしてはかなりの大股で歩き出した。
俺の腕をつかんだまま、しばらく早歩きで進んでいた井上が急に立ち止まった。
「井上?」
どうした? とその表情をうかがおうとしたその時。
「気持ち悪い」
「は?」
「やばい、超気持ち悪い」
……マジで? それ、どういう気持ち悪いなの? つーか、俺どうしたらいいわけ?
井上をのぞき込もうとしたのと、ちょっとした事故が起こるのと、残念な事にタイミングは殆ど一緒だった。