あり得ない男と、あり得ない結末
「美麗ちゃんの同僚さんってみんなイケメンね」
「そうですか? 一番のイケメンは帰ってしまったはずなんですけどね」
「ああ、馬場くんって子? 城治に聞いてる。でも阿賀野くんも瀬川くんも格好いい子じゃない」
「まあ、見た目は」
頭痛薬をもらった私が水を汲もうとすると葉菜さんが止めた。
「待って。すきっ腹に薬はよくない。何かお腹にいれないと。バナナとか平気?」
「あ、ありがとうございます」
葉菜さんは素敵だ。仕事だけじゃない。女性としても輝いている。
「今日、深菜(みな)ちゃんは?」
「深菜は部活よ。吹奏楽をやっているの。全然休みないわよ、あの子」
「そうかぁ。大変ですよね、最近の子供って。学校行って部活して塾行って……」
「そうね。私たちが子供の頃より忙しそう。反発してもいいと思うんだけど、今の子はおとなしいもんね。……変な世の中になったもんだわ」
あまりにさらりと言われたから、その時は何も気にならなかった。
薬を飲み、痛い頭を抱えたまま朝食の準備を手伝い、ようやく痛みが薄れたころ、本部長宅をおいとまする。
「すっかりお世話になっちゃってすみません」
「いいのよ、また来てね。阿賀野くんも瀬川くんも」
「ありがとうございます」
三人で駅までの道を歩く。
なんだか不思議なメンツになってしまった。阿賀野さんだけがひとりでべらべらと話し続けている。