あり得ない男と、あり得ない結末
「本部長の奥さん、美人だったな。すげーいい人そうだった。どうやって見つけたんだろ、本部長」
「以前の会社での同期らしいですよ」
「それにしたって、本部長が選ばれる理由がわかんねぇー」
それは……同意するかも。
しっかり者で優しくて仕事もできる葉菜さんが、どうしてあの勢いだけが売りみたいな城治さんと恋愛結婚する話になるのか、全く分からない。
「きっとふたりにしかわからない魅力とかあるんじゃない? 職場で見せてる面とプライベートで見せる面って違うじゃん」
冷静に言うのは瀬川さんだ。
たしかに、そういうのはあるかもしれないなぁ。でも葉菜さんならよりどりみどりだっただろうに、なんで城治さん……っていつまでたってもそこに戻ってしまうけど。
「そっか。じゃあ付き合ってみよっか、田中」
考え事をしていたから、話をよく聞いていなかった。ふと顔をあげてみると、隣を歩く阿賀野さんがどや顔で私を見ている。
「は?」
「な」
「え?」
「決まりな!」
「……何の話ですか?」
答えない阿賀野さんに、不審に思って逆の隣を見ると、瀬川さんが呆れたような顔で阿賀野さんを見ている。
「お前……、どうしてそういう流れに?」
「だって、付き合ってみなきゃわからないってことだろ? 遠山にも言われたけどさ、ムカつくんだよな俺、分かってないねぇって顔されるの」
「だからってなんで田中さんに」
「俺から一番縁遠そうなタイプだし?」
頭上で交わされる会話に呆気に取られていると、突然阿賀野さんに二の腕を掴まれて、背中に氷でもつけられたみたいにびっくりした。