あり得ない男と、あり得ない結末
フロントで何やらお金を払った彼は、「じゃあ、四十分後な。もっと長くても別にいいぞ」なんてあっさりと言う。
「え? ちょっと本当にお風呂に入るんですか?」
「気持ちいいぞー、日中の風呂は。あ、その袋の中に一応いろいろ買っておいたから使えよ」
指さされたのはさっきのコンビニで渡された袋。
確認する前に阿賀野さんが歩いて行っちゃうので、私も慌てて追いかけた。
すると大きな暖簾がかかった大浴場に着く。
「お前、そっちな」
「わ、分かってますっ」
阿賀野さんはにやりと笑うと、青色の暖簾をくぐっていった。
なんでこんなことになったんだか。
私はため息をついて赤色の暖簾をくぐる。
中に居るのはどちらかというと五十歳オーバーのご婦人ばかりだ。私の年代は珍しいのだろう。好奇な目にさらされているようで落ち着かない。
でも、お風呂に入りたいのは事実ではあった。
コンビニ袋を確認すると、ご丁寧に下着と化粧水のセットまで入っているではないか。
どうして平気な顔で女性用の下着を買えるのか不思議で仕方ないけれど、正直、下着は替えたいところだったのでありがたい。
それにせっかくの温泉。ここまで来て入らないっていう選択肢はない。
「悩むだけ損か」
私は諦め、ひとり女風呂に入る。