あり得ない男と、あり得ない結末
何だろうと思いつつ、入浴を終え着替えをしながら思い当たる。
友人と来たと言いながら、私の周りに友人と思しき女性はいない。深読みすれば、男の友人ときていることくらいは予測がついたのかもしれない。だとすればあれは冷やかしだったのかしら。
だからといって違うと否定して回るのもおかしい?
そして気が付けば、約束の時間なんてあっさり過ぎてる。慌てて基礎化粧品を付け、鞄に入っていたファンデーションでお化粧する。本当はアイメイクもちゃんとしたいけど、さすがに待たせすぎるのもな……。
ロビーにまで戻ると、阿賀野さんはスーツのスラックスの上にTシャツを羽織り首にタオルを巻くという格好に変わっていた。
「よう」
「すみません。遅くなって」
「いや? そんなに待ってないから、たぶん俺も遅れた」
柔らかい茶色の髪が濡れている。ちゃんと乾かしていないんだ。
急がせたのなら申し訳なかった。もっと時間設定の段階で考えればよかったんだわ。
「……思いの外、晴天の露天風呂が気持ちよくて長湯してしまいました。次回はもっと時間をとるようにしましょう」
仕事の基本は計画・実行・反省・そしてリカバリー。いつもの調子で反省を踏まえた次回案をつぶやいたら、阿賀野さんがははっと笑った。
「次あるんだ?」
思わず顔が熱くなった。
そうだわ。お試し恋人みたいなことをしているだけだった。
「ち、ちが……」
否定しようとしたタイミングで、また手首をつかまれる。
「いや? いーよ。また来ような。さて、腹減らない? 飯行こう」
「はあ」
「名物食いたい。その辺見に行こうぜー」
私をぐいぐい引っ張りながら、阿賀野さんはドンドン進んでいってしまう。
しかも歩きながらすぐ寄り道しちゃう。