あり得ない男と、あり得ない結末
通された部屋は、温泉宿らしく和室だった。入ってすぐに座卓のある居間っぽい部屋があり、奥が寝室になっている。
「ごめんなさい、今準備しますね」
そういって、私たちが荷物を置いている間に、布団を敷いてくれた。
並べられた布団がいたたまれなさを増長させる。
何の気の迷いで、泊まるなんて言ってしまったんだろう。
しかも同じ部屋。襲われたって文句の言えないような状態で。
「では、失礼します」
布団を整えた仲居さんが下がっていく。
落ち着かず「お茶でも飲みます?」と聞いてみたけれど、阿賀野さんは肩をまわしながら「いや」とつぶやく。
「それより飯かな。急だったから部屋用の食事は用意できないって。食事は外か、ホテル内のレストランで取ってくれって言われたんだ」
「そうなんですか」
「大雨になってきたしな。レストランでさらっと食うか」
「ええ。そうですね」
レストランはそこそこ込み合っていた。
緊張で喉が詰まって、お腹が空いているのか空いていないのかもわからない。
阿賀野さんは天ぷらご膳を頼んだけれど、私はそこまで入りそうな気がしないのでカニ雑炊を単品で頼んだ。
思えば、こうして阿賀野さんとふたりきりで向かい合っていることすら、今日が初めてかもしれない。
会社ではふたりきりになることなんてないし、同じ部署にいたときは、私は馬場主任のサポート専任って感じだったし。