あり得ない男と、あり得ない結末
今日の私、絶対おかしい。
どうしてあの時、電車に乗りたくないなんて思ってしまったんだろう。
同じ部屋だなんて。……どうすればいいのか。
料理がテーブルに置かれてからも、私はいつまでたっても落ち着くことができない。
雑炊をすする音さえ、どう思われるか気になって仕方ない。
阿賀野さんの目に、手に、口に。視線が引っかかって離すことができない。
「なんだよ、食いたいの?」
視線に気づいた阿賀野さんは見当違いなことを言う。
「違います」
「じゃあ、なんだよ」
「何でもありません」
バカみたい。私は何をそんなに気にしているのかしら。
何も起こるわけがない。
私と阿賀野さんはただの同僚で、彼の思い付きで今日だけ恋人同士のふりをしていただけなんだから。
「ほら」
目の前にエビの天ぷらが差し出された。
「え? あの」
「素直にもらっとけ」
でも。本当に、違うのに。
エビが欲しいわけじゃなくて。
「むがっ」
勢いよく口に突っ込まれて、涙目になる私。エビの天ぷらは熱くて、でも吐き出すなんてことできなくて、慌ててかみ砕いて飲み込んだ。
そして慌てて水を飲み込む。
「うまいだろ」
目の前の阿賀野さんが、それは楽しそうに笑うから、私は、胸が熱いやら痛いやらよくわからなくなって。
詰まった喉に無理やり水を押し込んで、「……熱すぎてよくわかりません」なんて、かわいげのない答えを返した。