あり得ない男と、あり得ない結末

さすが部屋がいっぱいというだけあって、大浴場もそこそこ混んでいた。
ひとりだし、誰と話すこともなく手早く体を洗い流し、洗い場の鏡面を見つめる。

すっぴんの自分の顔はそんなに好きじゃないけれど、アイメイクがなくても綺麗だと思われているのならば嬉しい。体だってそんなに無駄な肉はついていないし、ショートボブの髪も私の顔の形には合っていると思っている。
女に見えない……ほどダメな感じではないはず。

そこまで考えて首を振った。

待って違うわ。なんで期待しているみたいな発想に至ったのよ。
違う違う。貞操は自分で守らなければ。ちゃらちゃらした調子で襲い掛かってきたら肘鉄を食らわせるくらいの気概でいなきゃ。

何も起こるはずがない。今日だけ恋人のフリって言ったって、そこまでやっちゃったら笑い話にならないし。
それに、専務の娘の私を傷物にしたら出世にどれだけ響くかくらい、いくら行き当たりばったりの阿賀野さんでもできるだろうし。

「ないって。ないわ」

といいつつ、私はなんでこんなに念入りに体を洗ってしまうのか。
ああ、自分が何を考えているのかさっぱり分からない。

のぼせるほどお湯につかり、戻りがてらコインランドリーによる。
乾燥まで終わるのが一時間半くらいだから、後でもう一度来よう。

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