あり得ない男と、あり得ない結末
「美麗!」
「だってよく考えたら、おかしいもの。会社を継ぎたいのは本当はお父さんでしょう? 私の子供が大人になる頃、お父さん、生きてるかどうかだって分からないじゃない! それに、私、別に結婚しなくたって、会社の役には立てると思う」
「なっ」
「社長にならなくてもいい。会社の役に立てればいいじゃない。城治さんは私を戦力として扱ってくれる。私自身の価値を認めてくれるって思えるもの」
「美麗……?」
口ごもった父とは正反対に、阿賀野さんはぷはっと吹き出した。
何よ、この大事な時にと睨むと、お腹を抱えながら笑い続けている。
「やべぇな。お前、思ってたよりずっと格好いい」
今まで、阿賀野さんの笑顔には、どちらかと言えば不快になることの方が多かったのに、今は認められた気分。胸が熱くなって、苦しさと嬉しさが同時に訪れる。
私は阿賀野さんのほうに向きなおる。
「私、この週末、何度どうしてって思ったか分かりません。どうして嫌いだったはずの阿賀野さんと一緒に居たいと思ってしまったのか、どうしてあなたは私が思いつかないような行動をするのか。……でもそのどうしては、私の世界を大きく広げてくれるって気づいたんです」
そう。だから、私はあなたがいい。
「私、阿賀野さんのこと、もっと知りたいです」
父の前だというのに告白した私に、阿賀野さんもさすがにぎょっとようだ。
食い入るように私を見つめて、「マジか」なんてつぶやいている。