あり得ない男と、あり得ない結末
「……私に希望はありますか?」

問いかけに、彼はふわっと笑う。

「その気がなきゃキスなんてしないな。まさかたった一日で、こんなにハマるとは思わなかった」

そんなの、私もだわ。

私はホッとしてほほ笑んだ。そして頭を切り替えて父の方を向く。

「……ではまずは会食に行きましょう。その前に私、着替えないといけないし。ほらお父さん、早く」

「美麗っ、お前」

「今一番大切なのは、会食に遅れないことでしょう? 片桐さんにはお断りを入れてください。彼の企画のための口つなぎは、私がちゃんとしますから」

テキパキと段取りを考える自分は、いつもの私だ。
なんだ。自分の意思に焦点を当てれば、こんなに簡単に見えてくるものだったんじゃない。

父を喜ばせるのに、父のやり方をなぞる必要なんてない。
最終的に、私が私のやり方で、父に認めさせればいいだけなんだ。

ああ、すごいな、阿賀野さん。
あなたに導かれた世界は、こんなにも輝いてみえる。

「美麗」

背中にかけられた声。振り向くと阿賀野さんが微笑んでる。

「はい?」

「夜、電話する」

「ええ」

私も微笑みを返し、目を見交わしあう。

あなたの言葉が、呪文のようね。

『美麗はあなたが想像するよりもっと、幸せになれます』

そうだろうと私も確信する。だって、今既に、私は幸せな気分でいっぱいだもの。
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