あり得ない男と、あり得ない結末


 結局、片桐さんはあっさりと引き下がっていった。
週明けの月曜日に、突然のキャンセルのお詫びをし、内々で伝えていた結婚の話も破棄することを伝えると、彼は私を会議室へと誘い、そこで懺悔でもするように肩を落として白状した。

元々、好きな人がいたらしい。ただ、その人に振られたばかりで、降ってわいた縁談話に乗ろうかと考えただけだったのだという。
綺麗で仕事もできる人だと私のことは評していたけれど、恋になるかと言われれば微妙だったと、人のいい笑顔を浮かべて言われた。内心、ちょっとショックでもあり、呆れもした。仕事はできるひとだけど、そこまで自分の意思というものが強くない人なのかもしれない。

三ツ和銀行の会長さんとは昼食後お話をさせてもらい、片桐さんが手がける商業ビルのアートギャラリーの話ももちろん話した。
やはり絵画好きの会長さんは乗り気になってくれ、後ほど片桐さんと私設美術館のほうにお邪魔する約束も取り付けた。コネクションを繋ぐまでが私の仕事だ。そこから先は片桐さんの腕の見せ所だろう。

父はあれ以来、私と少し距離を置くようになった。
阿賀野さんのことを調べていたりもしたようだけど、知れば知るほど腹が立つのでやめたらしい、と母がこっそり教えてくれた。

「お母さんは反対する?」

「さあねぇ。ただ、美麗が楽しそうなのはわかるわ」

父の言いなりである母はそれだけを言う。反対はしていないのだろうと思うけど、どうなるかは分からない。
まあ私たちだって、まだ結婚する気まではないので、親のことを気にしたってしかたないだろう。
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