あり得ない男と、あり得ない結末
「もちろん。お相手もいい人よ。あなたが心配することは何もないわ」
「なら……いいんですけど」
どうせ私の恋は破れたんだし、だとすれば相手は誰でも一緒だ。
と、私に顔を寄せていた彼女が、突然後ろに引っ張られた。
「飲んでるかー? 百花ー」
やって来たのは阿賀野さんだ。かつてバックパッカーとして世界を回ってきたという異色の経歴の持ち主。
父ならば絶対に選ばないであろう底の読めない男。
「阿賀野さん、恋人のいる女性の肩を馴れ馴れしく抱くのはどうかと思います。主任があちらでにらみを利かせていますよ」
「いいじゃん、別に。百花が嫌がってないなら」
「嫌がってますよ!」
すかさず仲道さんが言い返し、阿賀野さんはやって来た馬場主任に首根っこを掴まれる。
「げほっ、苦しいって馬場。お前もそんな王子みたいなキラキラした顔してて、どうしてこんなゴリラみたいな女に惚れたんだか」
「阿賀野さんさっきっからひどくないですか」
「だって本当のことだろが」
さっきから意地悪なことばっかり言っているようだけど、阿賀野さんだって仲道さんのことが気に入っているくせに、と思う。
「……気になる異性をからかうのは、幼い男性のやることだと思いますけど」
阿賀野さんだけに聞かせるつもりでポソリと言ったら、思惑通り彼が眉間にしわを寄せた。
「なんだって? お嬢さん」
「同僚をお嬢さん呼びするのもどうかと思います」
「じゃあ、言い方変えるよ。専務のご令嬢の田中さん」
「嫌味な言い方も好きじゃありません!」
「ったく、かわいげねぇなぁ」
阿賀野さんは辟易したようにため息をつき、髪をかきあげる。
かわいげなどなくて結構。阿賀野さんのような自分勝手な人間は大嫌いだ。