あり得ない男と、あり得ない結末

一瞬漂った険悪な雰囲気。それを壊してくれたのは、私の救世主である遠山さん……じゃなくて千春さんだ。

「ハイハイ、すとーっぷ。阿賀野さんもまだまだだねぇ」

「遠山。まだまだってなんだよ」

「言葉通りです。ねー、美麗ちゃん」

「遠山さん!」


阿賀野さんを押しのけ、私の隣に座ってくれる。
おもしろくて包容力があって、若干ミーハーだけど悪気はない。
悪意も好意も変わらぬ表情で飄々と言ってのける。
たまにひどいことを言われているときもあるけど、彼女の言葉には裏がない。私は千春さんが大好きだ。
ああ、彼女が男の人だったら、どんな手を使っても婿にするのに。

千春さんが来てくれたことで、私の気はすっかり緩んでしまった。
今彼女は妊娠中で、アルコールは厳禁だ。代わりにお茶をと勧めると「トイレ近くなっちゃうからやめとく」と言われ、結果私はお酒を注がれるばかりになった。

「……だーかーらー。なんでそんな遠くにお嫁に行っちゃったんですか」

「うんうん。彼氏が転勤になったからだよう?」

「仕事までやめて……。週末婚とかすればいいのに」

「交通費のために働くの嫌だもん。それより美麗ちゃん、どんどん飲んで」

いつの間にか私はものすごく酔っていた。千春さんは飲ませ上手だ。話させ上手でもある。
いつもだったら、こんなに我を忘れるほど酔ったりしないのに。

「かわいいなぁ、美麗ちゃん」

そんなこと言ってくれるの、千春さんだけですって。
私、いつだってしっかり者で通ってるんですから。
ああでも、千春さんといるときの、このふわふわした感じはすごく好き。

ぺたんとテーブルに顔を付ける。
それから後の記憶はなかった。
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