碧い瞳のシャイ
海辺のお爺さん
穏やかな波と美しい夕陽
お爺さんは…
桟橋の端で椅子に腰掛けて
水平線に沈む夕陽を見つめてる
白い砂丘から
シャイが歩いて来ても気付かずに
「なぜ病院に行かないの?」
シャイはお爺さんの腕に前足を添えた
お爺さんは夕陽を見つめたまま口を開く
「心の声が聞こえるんじゃったな」
「うん!」
お爺さんは夕陽に反射する
シャイの碧い瞳を見つめた
「かれこれ三十年ぶりかの?…少しも変っとらんな」
「シャイって言うんだよ!」
お爺さんは微笑んだ
「ほほー…やっと名前を付けてもらったか」
「うん!」
お爺さんは真顔に戻る
「さっきの質問じゃが…もういいんじゃよ…」
「どうして!治る病気だよ!」
お爺さんはまた夕陽を見つめる
「彼女に逢えんのなら…生きていてもしょうがないんじゃ」
お爺さんは足下に視線を落とす
「おまえさんに勇気を持てと言われたのに…出来んかった」
「…」
シャイは黙ってお爺さんの瞳を見上げる
「あの頃は、老いらくの恋などと思とったが…今思うと全然若かったの~…」
「まだ間にあうよ…病気を治して逢いに行きなよ…君はなにもしないで、またあきらめるの?!」
シャイはお爺さんの腕を揺すった
お爺さんはシャイの前足を取って
肉球を優しく撫でた
「ありがとう…でも、もういいんじゃ…いいんじゃよ …」
そう言うとお爺さんは
水平線に沈みゆく夕陽に
瞳を預け続けた
シャイは白い砂丘に戻るしかなかった…