オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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そうして私は、いくつか得ていた内定の中から、その年収の高さで、大手広告代理店を選んだ。もちろん、収入に見合う働きをする覚悟はある。
けれど就職とは、それ以上でも以下でもなかった。
「卒業式の後は、入社式まで毎日弁当屋のシフトに入る。入社しちゃえば、それこそ収入はもっと安定する。心配、いらないよ」
葉月はクシャリと顔を歪め、泣き笑いみたいな表情で私を見つめた。
「……俺さ、ねーちゃんが俺のねーちゃんで良かった。父さんいなくて、母さんもいつも仕事でいなくて、寂しいと思う時もあった。だけど、いつもねーちゃんがいたから、俺、貧乏だけどここん家の子で良かったって、いつも思ってたんだ」
お互いに年頃になってからは気恥ずかしさもあって、こんなふうに面と向かって心の内を吐き出す事はなかった。
だけど今、私より体格も大きく男らしくなった葉月を抱き締める事に躊躇はなかった。
「葉月、そんなふうに言ってもらって、こんなに嬉しい事ないよ。これからはお金の心配はいらない、勉強を頑張って! ……あーっと、だけど引き続き一郎たちの世話もほどほどでやってくれたら、やっぱり嬉しい」
勉強だけに集中と言っておきながらする、調子のいいお願いに、最後は少し尻つぼみになった。
「ははははっ! それはもちろん、任せといて」
私の肩をポンポンと叩きながら、葉月は力強く頷いてみせた。
「あ、それからねーちゃん。ねーちゃん可愛いんだから、自信持ってよ? 俺さ、断言できるよ。ねーちゃんに好意持たれて迷惑がる男なんていない」
「も、もうっ! そんなにおだててみたって、これ以上は何も出ません! 私、バイト遅れちゃうからもう行くね! 一郎、次郎、三郎が帰ってきたら、おやつ冷蔵庫にあるからって言っておいてね!」
恥ずかし紛れに早口で言い置いて、私はバックを掴むと足早にアパートを後にした。
「別に俺は、おだてた訳じゃないんだけどね。まぁいいや、気を付けて。明彦さんによろしくね?」
「っ!」
出がけの背中に掛けられた揶揄に、思わず足がもつれて転びそうになったけれど、なんとか堪えた。