オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
赤ずきん、キツネに絡まれる
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その日、お弁当屋は曇天が影響してか、客足はまばらだった。
私はお客さまがプツリと途切れたところで、ふと公園内を見渡した。
……うわぁ。あの女性、足だけ寒そう。
すると私の目に、一人の女性が飛び込んできた。女性はブワッサァアっとした、温かそうな毛皮のコートを着ている。けれど足は膝上のミニスカートにピンヒール。ファッション雑誌の表紙モデルなら、さもありなん。けれど、寒空の下の公園という場所を鑑みれば、女性の恰好は相当にミスマッチだ。
私まで足元がスースーする気がして、思わずボア素材のインナーとジーンズを重ね穿きした太腿を擦り合わせた。
すると件の女性が、なんと一直線にこちらに向かってくるではないか。
「いらっしゃいませ」
驚きつつも、こちらは接客業。笑顔で迎える。
「ねぇ、明彦さんが熱心に通い詰めてる弁当屋ってここ?」
突然切り出された明彦さんの名前もさることながら、敵愾心も顕わな女性の態度にビクリとした。
女性は、その声はもちろんの事、射殺しそうな目つきで私を睨みつけていた。
「ちょっとアンタ、聞いてんの!?」
不幸にもこの時、弁当屋のお客は目の前の女性一人だけだった。人目を憚る必要のない女性は、第一声からとても居丈高だった。
実を言えば、私が明彦さんと会話するのを見て勘違いしたファンの女性に、きつい目や言葉を向けられた事は、これまでにもあった。だけど、こんなふうに直接問い質されるというのははじめての事だった。
「あ、はい。よく、いらっしゃいます」
女性の勢いに怯みながら、慌てて答えた。けれど女性は私の答えが気に入らなかったのか、一層鋭い目つきで私を睨んだ。
「え、……なに? アンタ、運野っていうの!?」
すると、私のネームバッジに気付いた女性が嘲笑を浮かべながら声を高くした。