オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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あの時は気恥ずかしくて、忍びなくて、だけどやっぱり嬉しくて、私は赤く染まった頬を明彦さんの目から隠すように俯いた。
私が明彦さんの仕事について聞いたのは、あの時だけ。それ以降、明彦さんの仕事について尋ねた事はない。だけど今も明彦さんが世界を股にかけ、激務をこなしている事は疑いようがなかった。
「……体調、崩したりしてなければいいんだけど」
ポツリと呟きながら、私は残りのお弁当を纏めはじめる。あと十五分ほどで、閉店の時刻だった。
「体調? もしかして月子、どこか体調を悪くしているのか!?」
すると頭上から、慌てた声が掛かる。しかも掛けられた声は、聴き慣れた明彦さんの声だった。
「明彦さん!」
まさかこの時間からやって来るとは、思ってもいなかった。
見上げれば、明彦さんが販売台の向う側から身をのり出すようにして、心配そうに私を覗き込んでいた。
「うむ、そう言われれば今日は少し顔色が悪い。連日のアルバイトで疲れているのではないか?」
私に言わせれば、目の下に薄く隈を浮かべた明彦さんの方が、余程に疲れて見える。しかも仕立てのいいスラックスは、長時間座っていたからだろう、座り皺がクッキリと刻まれていた。
もしかすると今日も明彦さんは、長距離フライトから直接、駆け付けてくれたのかもしれない。
「いいえ明彦さん、私はどこも体調なんて悪くありません。明彦さんこそ、疲れているところをわざわざ来ていただいたんじゃありませんか?」
私は緩く首を横に振って答えた。
「なに、俺が来たくてきているのだから、そんなのは気にしなくていい。それよりもなんとか開店中に間に合ったようでよかった」
「あ……、明彦さん。せっかく来ていただいたんですが、今日は明彦さんのお好きな豚汁も、のり弁も売り切れてしまって」
今日は売れ行きに偏りがあって、のり弁やシャケ弁は既に完売している。残っているのは、鶏のピリ辛炒め弁当と、麻婆茄子丼だけだった。
明彦さんがあまり辛い物を得意としていないのは、この三年の中で言われずとも気付いていた。
「うん? そこにあるのは違うのか?」
明彦さんは小首を傾げ、販売台の脇にあるのり弁を指差した。