オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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プルルルルル――。
翌日、アルバイトに向かう支度をしていると、私の携帯が鳴った。
プルルルルル、プルルルルル――。
……誰だろ?
表示を見れば、電話の相手はまさにこれから向かおうとしているお弁当屋さん。出がけのこんなタイミングで電話が掛かってきた事は、これまで一度もなかった。
……なんだろう?
怪訝に思いつつ、通話のボタンを押した。
「はい、運野です」
『――***』
電話の相手はもちろん、お弁当屋さんの店長。
ダミ声をした気のいい女性店長とは、私が高校卒業と同時に働きはじめて、もうかれこれ四年の付き合いだ
「っ、え!? 今日からこなくていいって、どういう事ですか!?」
電話口の店長からいきなり言い渡された解雇に、携帯を持つ手が震えた。
もちろん、納得出来る訳もなかった。
『――***』
「それは、確かにそうです。だけどそれには、ちゃんと理由があって……えっ!? そんな、そんな馬鹿な話って……」
だけど聞かされた解雇の理由に、続く言葉が出なかった。
なにより電話口では、四年間豪快な笑い声しか聞いた事のなかった店長が、すすり泣きを漏らしていた。
店長の憔悴しきった様子に、私まで涙が出そうになった。私への私怨による嫌がらせに巻き込まれた形の店長に申し訳なくて、とてもそれ以上言い募る事など出来なかった。
『運野ちゃんほんとに四年間よくやってくれて、あたしだって運野ちゃんクビになんてしたくないのよ。今回の件だって、運野ちゃんに非が無いのなんて、分かりきってる。だけどウチみたいな個人経営の売店じゃ、こんなふうに言われちゃ、にっちもさっちもいかなくて、ほんとにごめん! ごめんよぉっ!』
店長は、最後にそう言って声を震わせた。
私もまた、泣きながら四年間働かせてもらったお礼を伝え、最後に迷惑をかけた事を詫びて、通話を切った。