オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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プルルルルル、プルルルルル――。
自宅を出てしばらく進んだところで、トートバックの中の携帯が鳴った。
また、お弁当屋さんからだろうか?
私は慌てて携帯を掴むと、番号の表示を確認しないまま、通話ボタンを押した。
「はい、運野です」
『――』
「お世話になっております!」
相手の名前を聞かされた瞬間、シャキンと背筋が伸びた。電話の相手はなんと、四月から入社する会社の人事部長からだった。
これまでも会社とは、採用試験の時から幾度も電話やメールでやり取りをしてきたが、人事部長から直接電話を受けるというのは、はじめての事だった。
「はい、はい……え!? ちょっと待って下さい!? 内定取り消しってどういうことですか!?」
思わず、握った携帯を取り落としそうになった。
聞かされた内容は、到底納得できるものじはなかった。
「そんな!? 業績悪化って、そんなの納得出来ません!」
道端に場所を移り、何度も何度も同じ抗議を繰り返した。
人事部長はそのたびに、業績悪化により採用が出来なくなった、申し訳ないが受け入れてくれと、同じ言葉を繰り返す。
企業側からの内定取り消しには正当な理由が必要であり、それを業績悪化と定めた。だから人事部長は私がどんなに問い質そうが、絶対にそれ以外の理由を語らない。
柔和だが、頑とした姿勢を崩さない人事部長の態度に、私の不採用は既に覆らない決定事項なのだと悟った。同時に、この顛末にはあの女性が関わっている、そんな確かな思いが浮かんでいた。
私は人事部長への抗議をやめた。
『……可哀想だがこの状況では、私にもどうしてやる事も出来ない。君の才能をかっていただけに、本音を言えば私も残念でならないんだ。だが幸い、まだ一ヵ月以上ある。急いで動けば君の能力なら、新しい就職先を見つける事も出来るだろう。とにかくここでこれ以上揉めれば、君の今後に差し障る』
電話の最後に語られたのは、人事部長としての言葉じゃなかった。
私の身の上を思いやる、人事部長自身の心の声だと思った。
納得なんてしていない。だけど私がどんなに足掻いても、もうこの会社には入社できない、それだけは理解した。
私は静かに人事部長との電話を切った。