オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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俺が足を向けたのは、中央公園だった。なにか意図があってのものではない。本当に、気が付けば来ていた、そんな表現がピッタリだった。
空は抜けるような青さ。しかし三月中旬の空気はまだ、キーンと痺れるように冷たい。
……長居は出来んが、たまには新鮮な外の空気を吸うのもいいだろう。さて、何を食うか。
俺は公園内に出店している飲食店を見渡した。ホットドック、ケバブ、……おっ! 弁当屋が出ているな。
しかも弁当屋には、『温かい豚汁あります』ののぼりが揺れていた。
俺は迷わず、弁当屋に足を向けた。
「いらっしゃいませ」
弁当屋の店先に立った瞬間、俺の全身に稲妻が走り抜ける。
俺の目は、店番をする幼げな少女に釘付けになっていた。
「あの、お客さま? お弁当、どれにしますか?」
目の前で、小柄な少女が太陽みたいに微笑む。少女はくりくりとよく動く印象的な目をし、ふわふわとした毛質の髪を赤い三角巾で清潔に纏めていた。
……子リスのような、仔猫のような、庇護欲をそそる佇まい。
その姿は、かつて寝物語に聞かされた童話の主人公を彷彿とさせた。少女はまさに、不幸にもオオカミの餌食となった赤い頭巾を被った少女に瓜二つだった。
「君、何故こんな時間に弁当屋で働いている? ご家族が営んでいるにしても、今は学校の時間だろう?」
とにかく、寒空の下で弁当屋を切り盛りしているのは、とびきり可愛らしくて稚い小動物のような少女で、俺は良識ある大人として、児童労働を見過ごす事など出来なかった。
「え? ……あ、いえ。今日は午後の講義は入れてないので……」
「なんだと!? 事は入れる入れないの話ではない! 義務教育は、すべからく全ての児童が受ける権利を持ち、親には受けさせる義務がある!」
「……はぁ? あの、申し訳ないんすが、お弁当いらないんでしたら……」
ここまできても、少女の興味関心は弁当の売り上げの一点にあった。
俺はそんな少女の姿勢に、内心で衝撃を受けていた。現代日本にありながらこの少女は日々、どれだけ虐げられた日常を送っているというのだ!?
……これではまるで、かつて読み聞かされたマッチを売り歩く少女のようではないか。