オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
15
明彦さんが選んだ店は、街中でよく見る珈琲チェーン店とは違い、重厚感のあるフルサービスの形式の店だった。店の存在は知っていたが、私が入店したのはこれがはじめてだった。
店内は全席が独立したボックス席で、隣席とはほどよく空間が取られている。おかげで泣き濡れた私も周囲の視線を集める事なく、席に着く事が出来た。
席に着くと、私は通路に背中を向けるようにして、涙で濡れた顔を拭った。
「ブレンド珈琲とハーブティー、アイスコーヒーとオレンジジュース」
向かいの明彦さんが、メニューを注文してくれているようだった。
「それからミックスサンドとピザトースト、いちごショートとチョコレートケーキ」
明彦さんは私にメニューを問う事をせず、通路側に立つ店員さんに手早く伝えていく。
「かしこまりました」
おかげで店員さんの気配は、すぐになくなった。
問われたところで、今の私にはまともに答えられる自信がなかったし、この気遣いは本当に有難かった。
私は目にハンカチを宛がって、そのまま涙が止まるのを待った。明彦さんは私を急かそうとしなかった。
やっと涙が落ち着いて、私がハンカチから顔を上げた時、テーブルの上は注文品の飲み物と食べ物でいっぱいになっていた。
「!? ……す、すごい量ですね」
思わず、パチパチと目を瞬く。
「月子の好みが分からなかったからな。月子はどれにする?」
「あ、それじゃハーブティーを」
「冷たい方は?」
え? 一人当たりホットとアイス、二杯? だけどそっか、そうしないと流石に明彦さんが一人で三杯は多いだろう。
……だけど、どうしよう。ここで私がオレンジジュースと答えれば、明彦さんがコーヒー二杯の配分になってしまう。
コーヒーは、正直あんまり得意ではない。だけど、飲めなくもない。
「……アイスコーヒーを」
「うん? 気を遣う必要はないぞ? 俺は珈琲は何杯でも飲める、もちろん、オレンジジュースだって飲める。だから月子のいい方を取ってくれ」
私の僅かな逡巡に何かを感じ取ったのか、明彦さんはそんなふうに付け加えた。
「すみません。それじゃやっぱり、オレンジジュースを」
「そうか」
明彦さんはひとつ頷いて、私の前にオレンジジュースのグラスを置いた。
そうして私の前には、ハーブティーとオレンジジュース、ミックスサンドといちごショート、チョコレートケーキが並んだ。
何故ケーキが二個とも私の前にあるかといえば、どちらのケーキがいいかと問われた時に、私が僅かに悩んだその隙に、明彦さんが二個ともを私の前に置いたからだ。
「俺はあまり甘いものを好まない。月子がふたつとも食べてくれたら有難い。よし、まずは温かいうちに食おう。俺は単純だからな、腹が満たされると、自ずと気力も湧いてくるんだ」
明彦さんは朗らかに笑い、ピザトーストに噛り付いた。