オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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会社には、午後からは在宅での仕事に切り替える旨を伝えた。
月子の窮地に際し、どうしても社に戻る気にはなれなかった。幸運にも午後は、会議やミーティングといった重要な予定は入っていない。
目を通さねばならない案件は多いが、そんなのはいつだって出来る。月子が心を痛めている今、傍にいてやらなくてどうする!
俺は、店長の女性から聞いた月子の携帯の番号をプッシュした。けれど、番号の途中まで打ったところで、全身の皮膚がピリピリと痺れた。
……こ、これは! 月子の気配が近い!!
本能的な部分、第六感が月子の気配にざわめく。理屈ではなくこの瞬間、月子が近いと直感が告げる。
案の定、携帯から視線を上げて見回せば、公園に向かって歩む月子がいた!!
「月子!!」
俺はホロホロと涙の雫を零す月子の肩を抱き、喫茶店に場所を移した。
月子が自分のバッグからハンカチを取り出して涙を拭う。それを目にすれば、月子の涙を拭うハンカチを持たない事が悔やまれてならない。
次からハンカチは二枚所持しようと心に決め、月子の好みをカバーできるよう、多めにオーダーを流した。
その後は、月子が語る内容に、冷静に耳を傾ける。僅かにでも気を緩めれば、どす黒い怒りの感情に支配されてしまいそうだった。
間違っても月子を怯えさせたりしないよう、俺は必死に平静の仮面を被り続けた。
この仮面は、二年間の弁護士実務で得た収穫のひとつ。この最大の収穫物を与えてくれた弁護士経験に、今ほど感謝した事はなかった。
けれど聞かされた衝撃的な内容に、表情こそ仮面で取り繕う事が出来たが、小さく拳が戦慄くのは止められなかった。
……おのれ、俺の月子にこのような仕打ち! 俺が目に物を見せてやる!!
確固たる決意を胸に、ショーケースのケーキを全て持ちかえり用に包ませて、会計を済ませる。
そうして幾分か表情が明るくなった月子にケーキの箱を渡すと、俺は足早に喫茶店を後にした。