オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
赤ずきん、オオカミに救われる
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プルルルルル――。
その晩、三つ子を寝かしつけて、明日の朝食の下準備をしていると、携帯が鳴った。
表示を見れば【大狼明彦】と、明彦さんの名前が光っていた。
……大狼。
それは今日の番号交換で、はじめて知った明彦さんの姓だ。明彦さんはきっと、私が名乗らずともネームバッジを見て、私のフルネームを知っていただろう。だけど私は今回の一件で、はじめて明彦さんのフルネームを知り、そこから明彦さんのバックグラウンドにも思い至った。
明彦さんは本来なら、私なんかがおいそれと口を利ける相手じゃない……。
プルルルルル――。
鳴り響くコール音にハッとして、慌てて携帯を手に取った。
「もしもし、月子です」
はじめて聞く、電話機越しの明彦さんの声は、実際に対峙している時と寸分も変わらず落ち着いていて、耳に心地よかった。
「え!? ちょっと待ってください!? すみません、もう一度お願いします」
だけど聞かされた内容は、私にとってあまりにも予想外のものだった。思わず、聞き直してしまったのも仕方ないだろう。
だけど再び聞かされた台詞にも、なかなか理解は下りてこなかった。
「……私が、OGAMIグループに採用!?」
OGAMIグループは、言わずと知れた、日本が世界に誇る超大手だ。
創業家の大狼一族が経営する歴史ある会社だが、OGAMIグループは他の一族経営の大手とは一線を画している。代を重ねるごとに、業績が飛ぶ鳥を落とす勢いでグングンと伸びる企業など他にはない。
そんな超優良経営のOGAMIグループの現会長は、明彦さんのお父さまだ。
「……うそ、ですよね? だって、そんな……」
聞かされてまず、なんの冗談かと思った。
OGAMIグループは当然、就職だって超難関だ。それがどうして、採用試験も全てすっ飛ばして、私が採用してもらえると言うのか?
だけど電話口で明彦さんは至極真面目に語る。
『何故だ? 月子は今回取り消しとなった会社の内定の他、業界トップの内定をいくつも自力で取っていただろう? 月子が学業や社会性、その他に優れた能力を有しているのは瞭然だ。OGAMIグループとて例外でなく、月子が受けていたら、きっと内定を得ていただろう』
明彦さんは、なんでもない事のように言う。
その言葉が嬉しくもあり、少し切ない。