オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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それは、これまでに感じた事のない強い感情で、俺自身戸惑いは隠せなかった。しかし、この感情は不可解だが、俺にとって決して不快なものではない。
「いいえ、お気遣いいただいたのは素直に嬉しいです。それに本当の事を言うと私、お客様を一目見た時から、なんだか素敵すぎて浮世離れした方だなって思っていたんです」
ところが少女から返ったのは、思いもよらない言葉だった。
「あ、こんな事を言ったら失礼でしたか?」
「いや、そんな事はないが……」
少女と取り留めのない会話をしつつ、俺は数ある弁当の中からのり弁を選び、少女の手から受け取る。その時触れ合った少女の手は、冷え切っていた。そうしてカサカサに乾いた指先は、ささくれから痛々しく血を滲ませていた。
少女の笑顔は朗らかで優しい。しかし、改めて見た少女の頬はこけ、木枯らしにだってポキッと折れてしまいそうな細さだった。
……少女の実年齢は、俺が最初に想像した幼女ではない。けれど俺の目に、目の前の少女はやはりとても稚く、守るべき存在であるかのように映る。
同時に俺の脳裏には、俺が少女に降りかかる全ての災厄を防ぐ盾となれたなら……、そんな思いも浮かんでいた。
俺は弁当を受け取った後も、なかなか少女から視線を逸らす事が出来なかった。
「そうそう! よかったらこれ、召し上がってください。うちの弁当屋一押しの豚汁なんです」
すると突然、少女が俺にズイッと豚汁を差し出した。
少女の笑みと共に差し出された豚汁からは、ほかほかと湯気が立ち昇り、まろやかな味噌の香りが鼻腔を擽る。
自然と、ゴクリと喉が鳴った。