オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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 すると不思議な事に、防音に優れたカーウィンドウを飛び越えて、俺の脳内に『乗せて』という少年の声が響き渡った。
「……乗りたいのか?」
 俺はカーウィンドウを開け、少年に問いかけた。
「はいっ!」
 少年は弾けるように笑って頷いた。その人懐っこい笑みに、俺まで自然と表情が緩む。
 しかも姉弟だけあって、そっくりとは言わないが、少年の面影は月子に通じるところがある。そんなふうに少年に月子との類似点を見つけてしまえば、どうしたって好ましく感じずにはいられない。
「鍵は開いているから、そのまま助手席に乗っておいで」
「は、はい! お邪魔します!」
 少年は少し緊張気味に声を張り、いそいそと車内に乗り込んだ。
「はははっ。そう硬くならなくていい。ええっと、君は……三郎君かな?」
「はい!」
「そうか、せっかくだから少し走らせようか、どこか行きたいところはあるかい?」
「……だったら、ねーちゃんも一緒に近所のスーパーに乗せてって欲しい」
 返ってきた答えは、少しばかり意外なものだった。
「スーパー?」
「うん、うちは大人数だから、どうしたって買い物も膨れちゃう。ねーちゃんはいつも、両手いっぱいにして米とか油とか、重い物買ってきてて……車ならさ、そういうの全部楽ちんに運べるでしょう?」
「なるほど。君はとてもお姉さん思いだな」
「……うーん、どうかな」
 俺の言葉に長い間を置いて返ったのは、なんとも歯切れの悪い反応だった。
「どうかした?」
「だって、本当にねーちゃん思いだったら、早くこの家を出て独立するように背中を押すべきでしょう? そうしたら、ねーちゃんは僕らの世話から解放されて、金銭的にも時間的にも余裕を持って暮らせるよね?」
「……なるほど。君は年齢以上に大人びた物の見方をする。だが、君は一番大切なところを見落としている」
「え?」
「他ならない月子自身が、君達との暮らしを得難く、そして手放したくないと思っている。君達がいるから、月子は頑張れるんだ。なにより、君達の為に、月子自身が頑張りたいんじゃないかな」
 三郎は一瞬驚いたように目を瞠り、そしてスッと細くした。
「……お兄さん、僕、貴方に協力してあげる。もし、月子ねーちゃんの事で知りたい事とか聞きたい事とかあったら、なんでも言ってよ?」
 三郎から告げられた言葉に、今度は俺が目を瞠る番だった。
「はははっ。これは一本取られたな。……だが、そうだな。もし何かあれば、君を頼る事もあるかもしれん。その時はよろしく頼む」
 三郎は笑顔で頷いた。
 そうして三郎は微笑みを絶やさぬまま俺を見上げると、ゆっくりと口を開いた。
「だけどお兄さん、もしお兄さんが月子ねーちゃんを泣かせるような事があれば、僕はある事無い事ねーちゃんに吹き込んでだって、なんとしたって二人の関係を阻止してやるからね?」
 三郎の脅しに対し、俺の胸に湧き上がったのは何故か好感。
「……それはぜひ、肝に銘じておこう」
 俺は頼もしい小さなナイトの目をしっかりと見つめて答えた。対する三郎は、まるで俺の本気度を推し測ろうとでもするように、冷静に俺を眺めていた。
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