オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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月子の背中を眩い思いで見つめていれば、脇にいた三郎がおもむろに俺の袖を引いた。
「月子ねーちゃんさ、ここのフードコートのホットドックが好物だよ」
なんと!!
三郎が囁いたのは、たったこれだけ。けれどこの一言は、俺にとってこの上もない援護射撃だ!
「え? ねーちゃんはここのたい焼きのが好きじゃね?」
するとそれを聞き付けた次郎が、首を捻って呟く。
なんと!? たい焼きとな!!
「いやいや、たこ焼きだろ?」
な、なんと!! たこ焼きだと!?
更に被せられた一郎の呟きに、俺はゴクリと喉を鳴らした。
「「「えー!? (ホットドック)(たい焼き)(たこ焼き)だよ!!」」」
「……構わん!」
「「「え?」」」
俺の呟きに、三対の目が一斉に俺を見る。
「この際、ホットドックだろうが、たい焼きだろうが、たこ焼きだろうが、メニューの真偽はどうでもいい! ここまで分かれば、後は全てのメニューをオーダーすればいいだけの事!!
月子の好物がここのフードコートにあると知れただけで十分だ!」
俺の叫びに、三人は揃ってポカンと阿呆面を晒して俺を見上げた。
「お待たせしました」
そうこうしている内に、カートの返却を終えた月子が、パタパタと小走りでこちらに戻ってきた。
「あれ? どうしたの皆して?」
月子は呆けた三つ子の様子を見て、小首を傾げた。
「なに、学校帰りで小腹でも減っているのだろう。月子、かく言う俺も腹が減った。実は俺の用事とは、ここのフードコートだったのだ。一人よりは大人数の方が賑やかでいい。だからよかったら、一緒に食事に付き合ってくれないか?」
「え!? フードコートが目的だったんですか!? あ、そう言えばスーパーで何も買ってませんでしたっけ!」
月子は驚いた様子で目を瞬かせていた。
……ふむ。噓も方便とはこういう事を言うのだな。
「では、決まりだな」
「え!? 私、行くなんていってな――」
言うが早いか、俺は入店時に視界に捉えていた冷蔵ロッカーとやらに足を向けると、持っていた肉や野菜の入った買い物袋を押し込んだ。
……うん? 閉まらんな?
「お兄さん、百円を入れないと閉まんないよ」
なんと! 有料であったか!
「ふむ、そうだったか」
俺はいそいそと財布から百円硬貨を取り出した。
「ちなみにそれ、最後に返ってくるから、取り忘れに注意してね」
なんと!! 有料を装った、なんとも優良なロッカーだったのだな!
「ふむ、それは気に留めておこう」
こうして俺は三つ子の手を借りて、買い物の保管を済ませると、困惑気味に立ち竦む月子の背中を押し、人生初となるスーパー併設のフードコートに向かった。