オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
赤ずきんの恩返し
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入社から半年が過ぎた。
仕事は覚える事がいっぱいで、もちろん楽しいばかりじゃない。時には失敗をして落ち込む事もあるけれど、それすらも次に活かして頑張ろうと思える。学生時代には想像できないほど、私は充実した社会人生活を送っていた。
けれど、私が今、こんなふうにやる気と気概を持って働けているのは、幸運な偶然でもなんでもない。
これらは明彦さんの采配によるところ。全ては、明彦さんのおかげなのだ。
「おはようございます」
「あら運野さん、おはよう」
勤務開始時刻より一時間早く到着した経営企画室のフロア。
私が一番乗りかと思われたが、奥のデスクでは、既にチーフの牧村さんがパソコンに向かっていた。
「牧村チーフ、早いですね」
「うん、今日は特別。今日の午後明彦専務が出席する会議があって、その資料をちょっとね。本当は次回の会議でいいって言われてたんだけど、なんか今日の会議に間に合いそうだったから、上げちゃおうかなって思って。それより運野さんこそどうしたの? 一時間以上も早いじゃない」
「はい。実は昨日帰った後で、仕上げた書類の記載漏れに気が付いちゃったんです。なんだか気になって仕方なかったので、もやもやしてるよりはと思ってスッパリ出てきちゃいました」
「あら、それが正解ね。そういう時はサッサと片付けちゃった方がすっきりできるもの」
牧村チーフはうんうんと同意して、朗らかに笑った。そうしてグッとひとつ伸びをすると、デスクに置いてあった空のカップを手に席を立ち、フロアの端に置かれたコーヒーメーカーに向かった。
私は自分のデスクに向かい、すぐに荷物を置いてパソコンを立ち上げる。
「三杯分で作ったから一杯あげる。これ、なかなか効くのよ」
そうして私が昨日の書類と睨めっこをしていれば、マイカップと紙コップ、二杯のコーヒーを手に戻った牧村チーフが、ズイッと私に紙コップ差し出した。
コーヒー通の牧村チーフが手引きミルで挽いて淹れるコーヒーは、これまでも折々に振舞われており、その美味しさはよく知るところだ。
「ありがとうございます。いただきます」
「そうそう、ちなみに運野さん。それ、ちゃんと早出残業で付けておいてね。よろしく」
私がありがたく受け取って、フゥっと湯気を散らしていれば、牧村チーフが思い出したようにそんな台詞を告げた。