オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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会社がノー残業を推奨する金曜日の今日は、終業時刻と同時にフロアから一人、また一人と社員が減っていく。
私も作りかけの書面に保存をかけ、パソコンの電源を落とす。そうして奥に目線を向けるも、そこに明彦さんの姿はない。
ちなみにこれは、明彦さんが退社したというのではない。明彦さんは二時の会議に向かった後、一度もデスクに戻っていないのだ。
……どうしよう。
退勤こそしたものの、明彦さんの事が気になって仕方なかった。
……よし! 今日は朝から頑張ったから、特別にアイスを食べよう!
結局、どうしても帰宅する気になれず、私は普段は横目に見るだけの『オフィスアイス』に向かった。
『オフィスアイス』というのは、メーカーが社内に設置したアイスの販売ボックスの事。ボックス内のアイスはどれでも百円で、横の硬貨投入口に百円を投入して好きなアイスを取る仕組みだ。
入社から半年が経つが、実際に利用するのはこれが初めてだった。逸る胸を抑えて、ボックス内のアイスを覗き込んだ。
……ど、どれにしよう!? 我が家ではアイスと言えば、もっぱらお徳用アイスキャンディー。それとて大部分が息つく間もなく三つ子の胃袋に消える。
バラエティ豊かなアイスを前に、否が応にも心がときめく。
「運野さん帰らないの?」
私がわくわくしながらアイスを選んでいれば、同僚の小林さんにトンッと肩を叩かれた。
「あ、お疲れ様です。ええっと、アイスを食べて休憩してから帰ります」
突然肩を叩かれた事に少しだけ驚きながら答えれば、それを聞いた小林さんが、何故か目を輝かせた。
「え!? それなら僕、美味しいアイスクリームショップを知ってるんだけど、この後一緒に行かない!?」
「いえ、折角ですが私はここのアイスを一人で満喫してから帰ります。それじゃ小林さん、お疲れ様です」
小林さんの誘いには、即答で断りを入れる。
私は美味しいアイスクリームショップのアイスが食べたい訳ではない。
ここのアイスを食べながら、明彦さんを待つ事が目的だ。私は年長の小林さんにペコリと頭を下げて、その退社を見送る。
ところが私の見送りに、小林さんは目に見えてガックリと肩を落とした。
「……うん、お疲れ様」
そのまま小林さんは、気の毒なほど消沈した様子で足取り重く帰っていった。
……あれ? 丁寧に断ったつもりだったけれど、私の言い方が何かうまくなかっただろうか。
とにもかくにも小林さんの姿が見えなくなれば、私はアイスの物色を再開した。
チャリン――。
ん? 聞こえてきた硬貨の投入音にハッとして目線を向ける。すると、すぐ隣に明彦さんが立っていた。