オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない

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「す、すごい……!」
 部屋の扉を開け放っての第一声。
「見てくださいあのベッドの大きさ! ……あれ? 枕元に何かカラフルな物が置いてありますね。なんでしょう?」
 ツカツカと奥のベッドに進み、枕元の何かを右手で摘む。
 ……お菓子かな?
 ここでふと、さっきから明彦さんが一言も声を発していない事に気付く。
「明彦さん?」
 怪訝に思って振り返れば、明彦さんが極限まで目を見開いたまま、扉付近で石像のごとく固まっていた。
「明彦さん、もしかして運転で疲れちゃいましたか?」
 私は駆け寄って、茫然と立ちすくむ明彦さんの目の前に、先ほど掴み上げたカラフルなパッケージのお菓子を差し出した。
「何味かは分かりませんけど、よかったらガムでもどうですか?」
「……月子」
 すると明彦さんは、ハッとしたように石化を解いた。そして、ちょっと厳しい表情で、私が差し出したガムをムギュッと握り込む。
 ん? ガム、握っちゃう??
「これはガムではない」
「え?」
「……これは避妊具だ」
 聞かされた瞬間、ボンッと頬に血が昇る。
「っ! ご、ごめんなさいっ!! なんだかキラキラしたパッケージだったので、てっきり輸入物のガムか何かだとっ……!」
 恥ずかし紛れに、しどろもどろに釈明をしてみせる。
 そうだよ!? これは保健体育の教科書にだって載っていた、アレだ!! ……ただし、パッケージは随分とカラフルだけど。
「ふむ、確かにそんなふうに見えなくもないな。こういった行為はノリと勢いというのもあるのだろう。それでこのようにキラキラとした個包装なのだろうな。……ん? ベッドの脇の小型ボックス、あれはなんだ?」
 明彦さんは私の弁解に対してそれ以上追及する事もなく、真面目な顔で室内を見回した。
 そうして明彦さんはベッドに足を向けながら、途中のゴミ箱に、握り込んでいた避妊具を捨てた。
 私も明彦さんの後に続きながら、無意識にゴミ箱をチラリと見る。そうすれば、随分と握り込んでいたようで、避妊具はクシャクシャになっていた。
 ……私、今更何を動揺してるんだろう。ここはそもそも、そういう場所で、私と明彦さんはその実態を知るために来てる。しっかりしなくちゃ……、よしっ!
 私はクシャクシャの避妊具が捨てられたゴミ箱に、自身の心に蔓延る不用の羞恥心も一緒に捨て、明彦さんの隣に並んだ。
「販売機だな。……売っているのはラブグッズばかりだな」
 明彦さんが向かったベッドの脇の小型ボックスは、大人の趣向の販売機だった。
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