オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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翌日、弁当屋は昨日と一転して盛っていた。
……ふむ、人気があるのはよい事だな。
俺は行列の最後尾に並び、順番がくるのを待った。……釣りはない方が手間が無いな。さて、小銭はあったか?
順番が迫る中、俺はふと思い至り、長財布を引っ張り出した。
「……お兄さん、お兄さん!」
うん? なんだ?
前方から聞こえるダミ声に、財布を確認していた手と目が止まる。
「ちょいとお兄さん! 弁当、どれにするんだい!」
声を大きくされ、俺が財布に気を取られている内に、順番が回ってきていた事を知る。
……それにしても、昨日の彼女はこんなダミ声をしていたか? まさか、風邪でも引いて喉を痛めてしまったのではあるまいな!?
俺は慌てて覗き込んでいた財布から目線を上げた。
「す、すま……んんっ!?」
すると俺の視界に、赤い三角巾を付けた、コロコロとした太陽みたいな笑顔が飛び込む。
「おや、お兄さん、あんたいい男だね~!」
……何故、太陽は一晩で皺枯れてしまった?
「で、弁当はどれにする!?」
「の、のり弁を」
勢いに圧され、惰性で答える。
「あいよっ! 四百円ね! それからこれ、あたしからのサービスだよ!」
俺は茫然自失のまま、四百円と引き換えに、のり弁と豚汁を受け取った。
「次のお客さん、どれにする!?」
「おばちゃん、俺ものり弁。それからさっきのニイチャンにしたサービス、俺にも頼むぜ!? 俺だってイケメンだろう?」
「あらやだよ! あたしゃ二十年前のイケメンはお呼びじゃないんだけどね~。ま、いいやね! あんたもこれ、持ってきな!」
「おっ! ふとっ腹だねぇ~!」
後ろの客とダミ声の太陽が繰り広げる会話を背に、俺はとぼとぼとベンチに向かう。