オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない
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小型の販売機では、二段四種類のラブグッズが売られており、もちろん飲み物は売っていない。
「なるほど、まさに需要と供給。欲しいと思った時にすぐに買える手軽さは、抜かりないですね」
避妊具の一件で、私の中の何かが弾けた。
「いや、欲しいと思った時にすぐに買えると言う意味ならば、使用分をチェックアウトの際に清算する仕組みを取った方がいいかもしれんな。盛り上がる行為を中断して、いちいち財布から金を出すのは少々ナンセンスに思える」
私が冷静に室内の状況の分析をしてみれば、明彦さんも販売機の紙幣投入口を見つめながら真剣に答えた。
「なるほど、それもそうですね。……でも、喉が渇いても飲み物が買えませんね」
私と明彦さんは、坦々とラブホテルの状況について話し合う。時にはメモを取り、時には写真で記録しながら、室内の情報収集に励む。
「どうやら飲み物と軽食は、ルームサービスで提供しているようだ」
明彦さんが、ベッドヘッドの電話機横に置かれたメニュー表を取り上げる。
「ルームサービスですか? ……ルームサービスといえば、高級ホテルが行っているイメージでしたけど、違うんですね」
「……なかなか面白い品揃えだな」
「え?」
私も、明彦さんが手にしたメニュー表を覗き込む。
ドリンクメニューはビールから始まって、お茶にジュースと標準的。そうして目線が軽食メニューを捉えた時に、なるほど明彦さんの言葉の意味が分かった。
「カップラーメンに、ポテトチップス、ポッキー、……あ、一応おにぎりもあるんですね。館内の調理を最小限に抑えた提供品は、なんだかカラオケボックスに通じる感じがします」
「月子、なまじその発想は間違っていないぞ」
明彦さんが指し示す大型のテレビ画面の脇に目を向ければ、そこには二本のマイクが設置されていた。
「わ! あの大型テレビでカラオケが出来ちゃうんですね!」
なんとラブホテルはカラオケの機能まで備えていた。
「察するに、こういったホテルは元々防音の機能を持たせているから、カラオケを設置するにも都合がいいのだろうな」
明彦さんはおもむろにリモコンを手に取ると、電源ボタンを押した。
ピッ――。
『アン、アン、ア――』
ピッ――。
突如大型画面に浮かび上がった乳もたわわな女性のアップ。そうして、なんの鳴き声かと首を捻りたくなる喘ぎ声。
「……明彦さん、高揚した気持ちで入ってきたカップルはあれを見て、一層気持ちが盛り上がるんでしょうか?」
「そういう映像を共に見て盛り上がるカップルがいる事は否定しない。ただ、俺にはその感覚は分からん。俺ならば、伴った女性以外を敢えて見たいとは思わない」
「私も同じです。お相手の男性が、自分以外の女性を見るのは嫌です。……あ! もちろんそんな状況に直面した事は一度もありませんがっ」
本当はわざわざ、こんな弁解を付け加える必要なんてなかった。だけど気付いた時にはもう、口にしていた。
明彦さんは少し驚いたように目を見開いて、すぐに双眸を細くした。